「色彩調和(color harmony)」は、配色の正解を探したくなる分野です。「この組み合わせが一番美しいのでは?」と、これまで多くの色彩研究者が探求してきました。しかし、実際に人が「良い配色」と判断する評価は、文化・経験・文脈(用途や素材、照明、流行)に強く左右されます。
この揺らぎを前提にしながら、多くの場面で調和が生まれやすい条件を整理したのが、アメリカの物理学者・色彩学者Deane Brewster Judd(ディーン・ブリュースター・ジャッド)の色彩調和論です。
ここではジャッドがどんな人物か、彼の唱えた色彩調和論(4つの原理)とはどのようなものか、色彩学の専門用語を交えながらも読みやすい構成で解説しました。
ジャッドの理論は、マンセル表色系、トーン概念、色差・知覚とも深く結びついていて、色彩検定やパーソナルカラー検定など各種の資格試験でも登場します。勉強の参考になれば嬉しいですし、日常での活用方法についてもご紹介していますので、合わせてご覧ください。
ディーン・B・ジャッドはどんな人物?

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Deane Brewster Judd(ディーン・B・ジャッド、1900-1972)は、アメリカの物理学者です。20世紀の色彩科学を形づくった中心人物の一人で、キャリアの中核を 国立標準局(NBS / 現:国立標準技術研究所、NIST)で築きました。
学生時代からマンセル体系に関わり、のちにNBSのスタッフとして長く活動し、米国を代表する色彩計量(colorimetry)の研究者として国際標準化にも深く関与します。専門的には、マンセル表色系の実用化・改良、色差・均等色空間に関する研究、視感度関数(V(λ))への問題提起など、「色を科学的に扱う基盤」を整えました。
Optica(光学分野の主要学会)の伝記でも、ジャッドがNBSでキャリアを通じて活躍し、米国を代表する色彩計量の権威として位置づけられていることが述べられています。
資格試験のテキストではほぼ、ジャッドが単に「過去の色彩調和論を研究して、4つに分類した」としか触れられていません。しかし実際には、「色の見え方」について物理と心理の橋渡しに大きく貢献した人物です。
「ジャッドの色彩調和論」の全体像
ジャッドが、先人たちの研究をまとめて1950年に発表した色彩調和論は、「この色とこの色があう」と配色を単なるパズルのように色票の組み合わせにとどめず、人間の知覚・学習・文化的な慣れまで含めて、調和を説明しようとします。
その要点は、次の4原理に整理されます。
秩序の原理
(Principle of Order)
親近性の原理
(Principle of Familiarity)
類似性の原理
(Principle of Similarity)
明瞭性の原理
(Principle of Clarity)
ここで重要なのは、ジャッドの立場が「普遍的な美の法則が一つある」というより、調和と評価が生まれやすい"条件の束"として語られている点です。実際、後年のレビュー論文でも、色彩調和は文化や嗜好の影響を強く受けることが繰り返し論じられています。
もっと噛み砕いていえば、ジャッドの色彩調和論は「この配色は正しい/間違い」という絶対的ルールを示すものではなく、彼が示したのは人が配色を見たときに"調和している"と判断しやすくなる条件です。
ジャッドの4つの原理を詳しく解説
さて、それではジャッドが提唱した4つの原理についてみていきましょう。
1. 秩序の原理 ── 配色に「ルールが見える」と調和しやすい
秩序の原理(Principle of Order)は、色の並びや選び方に、観察者が読み取れる規則性がある状態は調和するという考え方です。
色票を色相順・明度順・彩度順に並べると「整って見える」感覚がありますが、これは視覚が系列(スケール)として理解できると、負担が下がり、評価が安定しやすいことを示唆します。
実務・日常での使い方(例)
- 同一色相で、明度や彩度だけを段階化:単色配色(モノクロ)で秩序を作る
- 色相環上で幾何学的に組み合わせる:ヨハネス・イッテンの調和論に同じ
古代ギリシアでは「美は調和であり、調和は秩序である」とされていました。
「オストワルト表色系」でも知られる、ドイツの化学者フリードリヒ・ヴィルヘルム・オストヴァルト(1853-1932)は、1918年に発表した論文において「調和は秩序に等しい」と定義しました。彼の考案した表色系は、各色に白と黒を一定の割合で混ぜてできた色を並べています。

また、スイスの芸術家であり教師のヨハネス・イッテン(1888-1967)は、色相環で反対側にある色同士や、三角形・四角形を描く組み合わせの調和論を説きました。この考えも、ジャッドの秩序の原理に該当します。

同じ色で明るさを変える、彩度を変えるなどのいわゆるグラデーション配色も、秩序の原理に基づくわかりやすい配色です。
日常において、秩序の原理に基づく配色は「理解されやすさ」が求められる場面で特に効きます。
たとえば、人が使用する物品の使い方を示すUI(ユーザーインターフェイス)の配色で、状態をグラデーションで示されていると「変化の段階」がわかりやすい。
製品のブランディングやパッケージの配色でも、秩序だった色遣いは統一感と洗練された印象を与えます。
2. 親近性の原理 ──「見慣れた配色」は安心として評価されやすい
親近性の原理(Principle of Familiarity)は、"なじみの原理"とも訳されます。これは、その文字通り見慣れた色の組み合わせは調和と感じやすいと考える原理です。
親近性は、経験・文化・自然環境によって形成される「色の記憶」です。たとえば、自然の風景(空と海、森の緑、土や石の色)や、地域の生活文化(衣服、建築、祭礼色、食文化の色)に頻出する配色は、体験として蓄積され、受け入れられやすくなります。
実務・日常での使い方(例)
- 観光・地域ブランド:その土地の自然色(海・山・土・空)を抽出して基調色へ
- 食品:素材色(焼き色、青果の自然色)を中心に“安心感”を設計
- 伝統文化:慣習色(祝い、喪、宗教、季節色)を外さない設計
アメリカの物理学者オグデン・ニコラス・ルード(1831-1902)が提唱したナチュラルハーモニーは、なじみの原理に該当する配色の典型です。

ルードは「同じ色でも、光の当たっているところは黄みがかかって見え、影の部分は青紫がかって見える」という発見から、色を組み合わせるときに色相環状で黄色に近い色のほうの明度を高く、青に近いほうの明度を下げると、自然界の見え方に近づいて調和すると提唱しました。

余談ですが、このナチュラル配色を反対にしたものをコンプレックスハーモニーといいます。こちらの配色では、黄色に近い方を暗く、青に近い方の色を明るくします。すると、自然界には見られない色の明暗、つまりなじみのない配色となります。
親近性の原理について考慮すべき重要点は、親近性が「万人に同じ」ではないということ。その配色を見る人が触れてきた文化に依存し、国・地域・世代・専門性で変わります。また、親近性が低い配色は違和感になり得ますが、文脈によっては新鮮さにもなります。

たとえば、日本に住む多くの日本人にとって、海外の旅先で浮世絵とか神社の絵を見ると「めっちゃ和テイスト!」と感じると同時に、日常生活では浮世絵なんてほとんど目にしていないのに、なんとなく親近感を抱くみたいな感覚、ありませんか?異国で日本のものに出会ったという嬉しさは、その対象の配色への潜在的な"なじみ深さ"も関係しているのでしょう。
一方で、日本に住んだことがない方々にとって、その配色は"なじみ"ではなく"新しい"ものとして目に映っているはずです。
日本人を対象とする配色なら、日本国内の自然界に多い配色(空と海、植物と土)、日本文化に根付いた配色(和色)、食品や生活用品で頻繁に見られる色を使用すると、心理的抵抗が少なく評価されやすいと言えます。
3. 類似性の原理 ── 共通要素があると「同じ世界」に見える
類似性の原理(Principle of Similarity)は、配色の中に“共通する属性”があると調和しやすい、という考えです。共通性の原理とも呼ばれます。
共通項は、色相・明度・彩度だけでなく、トーン(tone)や灰み(グレイッシュさ)、素材の質感、照明条件によっても生まれます。
共通要素の代表例
- 同系色(アナロガス)=色相が近い
- 同一トーン=明度・彩度の傾向が揃う
- 同じ“白/黒”の混ざり方(等価値・等白量/等黒量の発想)
- 同じ素材感(マット同士、メタリック同士)
この原理は、「まとまり(unity)」を作る技術として理解すると使いやすいです。使用する色のどこかに共通する要素を含めて組み合わせます。近似色だけでコーディネートしたもの、色は違うけれど同じトーンでまとめたもの、同じ色をトーン違いで合わせたもの、白黒の配合比が共通などなど、条件はさまざまです。
フランスの化学者ミシェル=ウジェーヌ・シュヴルール(1786 – 1889)は、自身がパリでゴブラン織工場の染色責任者を務めていた際に「発色が悪い!」という苦情を多数受けたことから色の調査を進め、組み合わせた色によって見え方が変化する「同時対比」の効果を発見。のちに、「色彩の同時対比の法則とこの法則に基づく配色について(1839年著)」を発表しました。
この著書で、類似の調和と対比の調和について説いています。その前者がまさにジャッドの類似性の原理に該当する配色です。

色彩検定や各種検定試験に登場する配色パターンで言えば、ドミナントカラー配色、ドミナントトーン配色、トーン・オン・トーン配色、トーン・イン・トーン配色、トーナル配色、カマイユ配色、フォ・カマイユ配色などは、すべて類似性の原理に基づきます。

類似性の原理はあらゆるところで日常的に用いられていて、統一感ある服装、製品、空間づくりの配色の基本。類似性の原理に基づいて主張色を決めて全体のイメージを作り、部分的に対比のアクセントカラーを使うと一層効果的です。
4. 明瞭性の原理 ──「曖昧な差」は不協和になりやすい
ジャッドの四原理の最後は明瞭性の原理です。ポイントは、似ているのに同じではない中途半端な差が、不快・不安定に感じられやすい、ということ。
たとえば、
- ほぼ同じ明度・彩度で、色相だけ微妙にズレた2色
- グレーに見えるが、片方だけわずかに有彩色寄り
- 背景と文字のコントラストが足りない
こうした状況は、視覚が「同じカテゴリーに入れるべきか、別物か」を決めきれず、判別コストが増えます。結果として、調和というより"濁り"や"にごった違和感"として出やすい。

たとえば、スーツ姿なのにジャケットとパンツの色が微妙に違っていると、統一感が薄れます。見ている相手にも「あえて色を変えているのか、ただ家にあるものを着ただけなのか‥。いずれにせよ違和感があるな」と判断されかねません。相手が頭の中でそこまで言語化していなくても、微妙な印象を与えてしまうでしょう。

色の誘目性・視認性の記事でも触れた、文字の明度差が足りなくて読みにくい場合(グレー背景と黒文字)は、不調和感を与えます。
実務での対策
- 似せたいなら もっと揃える(差を消す)
- 分けたいなら もっと離す(差を十分に取る)
- UIなら「コントラスト比」や明度差を定量で管理(可読性=明瞭性)
具体的には、トリコロールカラー(3色配色)やビコロールカラー(2色配色)のような明快な組み合わせが、明瞭性の原理に則った配色です。国旗や企業ロゴはその典型です。はっきりした色遣いで、集団の象徴を伝えます。

明瞭性の原理と、前出の類似性の原理は一見相反する考えのようにも思えます。しかし、それこそジャッドの原理が「絶対的に美しい配色」を示すものではなく、使用する目的と状況によって"適した配色"が変わることを示しています。うまく使い分けることで、調和感を得られ、意図したメッセージを届けることができるでしょう。
まとめ:ジャッドの色彩調和論を、現代の配色にどう活かすか
ジャッドの色彩調和論は、「この配色が正しい」と断言する理論ではありません。代わりに、
- 秩序:配色にルールが見える
- 親近性:見慣れた文化・自然の記憶に沿う
- 類似性:共通項でまとまりを作る
- 明瞭性:曖昧な差を避け、差は差として成立させる
という、評価が安定しやすい条件を提示します。
ブランド、UI、建築、パッケージなど実務の配色設計では、まず「秩序+類似性」の原理に沿って配色の骨格を作り、「親近性」でターゲット文化に合わせて調整する——この順が、かなり再現性高く機能します。そして、対象によっては「明瞭性」で読みやすさ・分かりやすさも加えます。
ジャッドのまとめた4つの原理は、資格試験の学習範囲だけにとどまらず、日常生活で大いに活用できるカラーコーディネートの手がかりです。すでに身の回りの多くのものが、4つの原理いずれかに該当する配色を用いています。ぜひ、暮らしのなかで探してみてください。