私たちはなぜ色が見えるのか?
このページでは、色が見える仕組みについて解説します。すでに当サイト内の「そもそも色って何なの?色の見方がひっくり返る3つの要点」で触れたテーマをより深掘りした内容です。
色とは何か?の記事では、「そもそも色って何だろう?」という漠然とした疑問に対し、できるかぎり専門用語を避けてカジュアルな読み物として、色を感じられる体験の大切さをご紹介しました。
今回はイラストや写真を交えながら、もうすこし具体的に説明しています。色彩について学習中でしたら、理解を進める手助けになれば幸いです。
色が見える仕組み:なぜ私たちは色が見えるの?
色が見える仕組みは、光とモノ(見ている対象)と目の3つの相互関係で成り立っています。そして、この三者に「脳」を加えた4つのはたらきのなかに色が生じます。
こちらが色知覚のプロセスです。
色を感じる流れ
- 明るい場所(光がある)
- 見ている対象が照らされる
- 照らされた光が目に届く
- 目の視細胞が反応する
- 脳に情報を送る
- 脳の視覚野が分類する
- 対象の色を知覚する
明るい場所(光があるところ)で、見ているモノ(対象物)から反射した光を目がとらえます。私たちは、その受け取った刺激を電気信号に変換して脳に伝え、赤や青や緑や、そのほかあらゆる色を感じます。
空の色は、大気中の水滴や微粒子に光がぶつかって反射した結果です。赤ワインのような色のついた半透明の液体は、光の一部だけが液体内を通り抜けています。
また、光源から発せられる光がそのまま目に届き、感じる色に影響を及ぼします。
色の4つの要素と特徴
今度は、それぞれの重要なポイントを箇条書きにしました。
ポイント:光について
- 光とは、「人が見える電磁波」のこと
- 光は、波であり粒子の性質を持つ
- 光は、波長の大小と強弱でエネルギーが異なる
- 光源の種類によって、放射する波長成分比が異なる
- 光は直進するが、何かに当たると反射・吸収・透過したりする
ポイント:モノについて
- 物質はすべて、素粒子でできている
- 物質はすべて、原子(素粒子の集合)を組み合わせた分子で成り立つ
- 物質の分子構造によって、光の吸収・反射率が異なる
- 物質の表面構造によって、ツヤツヤ、マットなど反射の質感が変わる
- ガラスや水などが透明なのは、光を通す(透過する)から
ポイント:目について
- 光が「見える」のは、目のなかの視細胞のおかげ
- 目には、明暗を感知する視細胞がある
- 目には、色を感知する視細胞がある
- 色を感知する視細胞は、主に3種類
- 視細胞の状態は、遺伝によって異なる
- 目は、老化する
- ほかの動物は、可視範囲が違う
- 目は、受け取った光を電気信号に変えて脳に送る
ポイント:脳について
- 脳は、目から信号を受け取り、整理・分類する
- 脳は、目から得た信号を最終的に色と形に変換する
- 脳は、周りの状況に応じて見える色に解釈を加える
- 脳(あるいは全身)は、見た色に生理的な反応を示す
- (おまけ)人は、目を通さなくても色光の影響を受ける
色の見え方、感じ方に関する箇所を太文字にしています。
私たちが目にしている色は、いつでもその同じ状態を保っているのではありません。色は、光とモノ、目と脳の働きによる感覚的体験です。だから、条件が変わると感じ方も変化します。
光は、太陽か電灯なのか?見ている対象が何か?その対象が、光をどう吸収・反射しているのか?、目の状態(老化や遺伝要素)はどうか?、脳の機能および個人的な記憶の補正、心理作用は働いているかなど、複数の要素が色に影響します。
これら4つのポイントは、大きく2つの領域にわけることができます。光とモノは「物理現象」、目と脳は「生理反応」です。
言い換えると、体の外で起こっている現象と、体の中で生じる反応です。
色は「物理現象」と「生理反応」の掛け合わせの産物。
そこで、両面から色への理解を深めるために、2ページにわけて重要なポイントをご紹介することにしました。
まずは物理のパート、光とモノについてご覧ください。
色のしくみ:光について
私たちが日常的に「光」と呼ぶものは、電磁波です。
電磁波は、電場(電気力)と磁場(磁力)の相互作用であり、波打って空間内を進む現象です。
スマホの電波、レントゲンのX線、赤外線や紫外線も電磁波。光もその仲間。それぞれの違いは、波の長さ、周波数です。
おまけ話:光への理解
色や光に関する研究は古来から試みられてきました。
色の科学の世界で広く知られているのは、万有引力を発見したことでも有名な、17世紀の物理学者アイザック・ニュートン(1643-1727)です。
ニュートンは、太陽光を「プリズム」という三角柱のガラスに通して、光をスペクトル(波長ごとの固有の光)に分ける実験に成功しました。ここから、太陽の白い光はすべての色が混ざったもの、色の源であると示しました。
このとき、ニュートンは光を「粒子」だと考えていました。
一方で、同時代を生きたオランダの数学者・物理学者クリスティアーン・ホイヘンス(1629-1695)は、光が波の性質を持つという「波動説」を提唱します。
さらに、時代が下って19世紀、イギリスの物理学者ジェームズ・クラーク・マクスウェル(1831-1879)が電磁波の存在を示し、光もその一種だと説きます。余談ですが、マクスウェルは史上初のカラー写真の撮影にも成功した人物です。
そして20世紀、かのアルベルト・アインシュタイン(1879-1955)が「光は粒子と波の両方の性質をもった光量子だ」とする説を唱え、光の性質についての議論は一旦決着しています。
光を含む電磁波は、うねりながら直進し、放射状に広がるエネルギーの「波」かつ極小の「粒子」の集合だと、現代科学では説明されます。
電磁波が広がるイメージ
一般的に、電磁波の説明には2つの尺度、波長と周波数が用いられます。
波長は、波ひとつ(山から山まで)あたりの長さを示し、単位はメートルです。長さに応じてピコメートル(pm、1兆分の1メートル)、ナノメートル(nm、10億分の1メートル)、マイクロメートル(μm、100万分の1メートル)を用います。
そして、1秒間に繰り返される波の回数はヘルツ(Hz)であらわします。
補足:波長と周波数
- 波長:波の山から山までの長さ(単位:m)
- 周波数:1秒間あたりの振幅回数(単位:Hz)
電磁波は、山の間隔が狭い(波長が短い = 短波長)ほどエネルギーが大きくて屈折しやすい性質を持ち、間隔が長くなるほど(長波長ほど)エネルギーは小さく、直進します。
可視光線・可視範囲
色に関して重要なのはここからです。私たちヒトの目は、電磁波のわずかな波長領域だけを「見えるもの」として感知します。
見える範囲は、およそ380から780ナノメートル。概算で400~700nmです。(可視波長の両端には、個人差があります)
この波長域の電磁波を「可視光線(一般的には光)」とよび、見える範囲だから「可視範囲」とも言います。
同じ電磁波の仲間でも、スマホの電波が見えない理由は、波長が可視範囲外だから。
また、ここでいう可視は「人間が知覚できる」という意味です。ほかの生き物は可視範囲が異なります。
ほかの生き物は、もう少し小さな電磁波まで見えたり、もっと大ざっぱな波しかキャッチできなかったり、さまざま。
犬は人間より可視範囲が狭くて赤や緑の見分けがつかず、灰色の濃淡にみえているといわれています。反対に一部の鳥は人間よりも可視範囲が広く、紫外線領域まで感じとっているといわれています。(関連:犬や猫は色がわかるの?)
可視光線の色
限定された可視範囲なかで生きる私たちにとって、可視光線があらゆる色のみなもとです。それ以外は見えない = 色として感じないので。
ただし、光そのものは無色。色を感じさせる作用、エネルギーを持っているだけです。
光を受け取った目の細胞が反応し、波長成分の割合、強度を解析し、脳で色に変換されます。
可視光線の波長帯は、大きく3つに分けられます。
400~500nm付近の短い波長帯は「短波長」で、私たちはこの領域の光を目にした際にバイオレット(青紫)や青を感じます。
500nm~600nmあたりは「中波長」といい、緑から黄色を感じます。
そして、600~700nmは「長波長」で、オレンジや赤い色として知覚します。
このように分割される理由は、私たちが、短・中・長波長のそれぞれの領域に感度が高い3種類の細胞を目のなかに持っているからです(次のページで説明)
紫外線・可視光線・赤外線の波長や周波数表
以下は、見えない範囲と見える範囲の電磁波の波長や周波数の概算をまとめた表です。
波長が短い(周波数が高い)ガンマ線からスタートして、レントゲンのX線、紫外線(UV)、そして可視範囲の紫〜赤へと進み、また不可視の領域に入る赤外線、マイクロ波、ラジオ波まで並べています。
ガンマ線(不可視) |
波長:10pm以下 |
X線(不可視) |
波長:10pm-10nm |
紫外線(不可視) |
波長:10-400nm |
青紫 |
波長:380-450nm |
青 |
波長:450-480nm |
水色 |
波長:480-510nm |
緑 |
波長:510-575nm |
黄 |
波長:575-585nm |
橙 |
波長:585-620nm |
赤 |
波長:620-780nm |
赤外線(不可視) |
波長:780nm-1mm |
マイクロ波(不可視) |
波長:1mm-1m |
ラジオ波(不可視) |
波長:1m~100m |
補足:周波数の単位の補足
MHz(メガヘルツ):毎秒100万回振動
GHz(ギガヘルツ):毎秒10億回振動
THz(テラヘルツ):毎秒1兆回振動
PHz(ペタヘルツ):毎秒1000兆回振動
EHz(エクサヘルツ):毎秒100京回振動
この表は、私たちの「見える/見えない」の違いが波長や周波数の差でしかないことを示したもので、数値はあくまで参考程度にご覧ください。
波長で言えば、400nm付近より短くなると紫外線の領域に入り、目では見えません。反対に780nmより長くなると赤外域で、また見えなくなります。ちなみにスマホやWifiに主に使用される2GHzの電波の波長は15cmほど、マイクロ波に属する不可視領域にあります。
分光分布
今度は、「光の質」に視点を変えましょう。
光と一口に言っても、太陽光や炎などの自然光、白熱電球・蛍光灯・LEDなど人工照明のように、光源(こうげん)には種類があります。
光源は、それぞれ放出する可視光の波長成分比が異なり、その割合を示した図を分光分布図(ぶんこうぶんぷず)といいます。
太陽の分光分布図
こちらは、太陽光が可視範囲の波長をどのように含んでいるかを示した分光分布図です。太陽光は、長波長に比べて短波長側の青みの光を少しだけ多く放射しています。
太陽光のうち、全体の約54%が380~780nmの可視光の成分で、残り46%は可視範囲外の紫外線や赤外線の領域の電磁波です。(全部混ざって、私たちの目には白く感じる)
電球の分光分布図
こちらは白熱電球の分光分布図です。電球は、長波長側の赤寄りの光を多く出していることを示しています。
よく晴れた昼間の公園と、ランプの灯るレストランの雰囲気だと、あきらかに眩しさと色調が違いますよね。
その違いは分光分布の差。
蛍光灯やLEDも、それぞれ異なる分光分布の光を放っています。
光の反射・吸収・透過・屈折・干渉・散乱
光は基本的には直進します。しかし、なんらかの障害にぶつかると、反射・吸収・透過などふるまいを変えます。
反射(全反射/選択反射と、正反射/乱反射)
反射は、光の反射量から「全反射」と「選択反射」の2種類に分けることができます。
全反射は、光をすべて反射すること。選択反射は、光の一部だけを反射した状態を指します。
光を全反射する物体は、あたった光の波長成分をそのまま目に届けます。
たとえば、太陽光や一般的な室内照明下で、全反射する物体を私たちは白いと感じます。言い換えると、白いものは光を全反射しているということ。(補足:テレビやスマホなどは、ディスプレイが発光するよって光が直接目に届いています。その光に基づいて色を感じているため、吸収・反射の原理とは異なります)
選択反射は、波長の引き算です。たとえばリンゴを赤く感じるのは、光源から出た光のうち、青や緑を感じる範囲の光を吸収し、オレンジや赤を感じる光を反射した結果です。
また、光は物体の表面構造によって反射の質感を変えます。表面がツルツルだと正反射(鏡面反射)し、凹凸があると拡散反射(乱反射)をおこします。
正反射は、光の入射角と反射角が一致した状態、鏡のような質感です。太陽光のような白色光の正反射はピカッと白く光ってみえます。
乱反射は、光が四方八方に散らばって反射すること。ツヤのないマットな印象となります。
吸収(全吸収/選択吸収)
吸収にも2種類、全吸収と選択吸収(光の一部を吸収、一部を反射)があります。
全吸収は、物体にあたった光の各波長をまんべんなく吸い取ること。光を全吸収する物体は、光を跳ね返して目に届けません。そのような物体は、吸収の度合いに応じて灰色〜黒にみえます。
言い換えると、黒やグレーに見えるものは、光の大部分を吸収しています。
選択吸収は、選択反射と主従反対の表現。光の一部を吸収して一部を反射することを意味します。
透過(全透過/選択透過)
「透過」とは、光を通すこと。全透過は、光がそのまま通り抜けることで、選択透過は光の一部が吸収され、残りが通り抜けることを意味します。
ガラスのように透明なものは、光が全透過した結果として向こう側がみています。光の透過率に応じて、透明度が変化します。
すりガラスは、表面がザラザラのため光の一部が乱反射を起こし、残りが通り抜けているためボヤけてみえています。
緑のビンやグラスに注いだ赤ワインなど、色つきの半透明なものは、可視光の一部を選択吸収し、残りを通した(選択透過した)結果です。
屈折・散乱・回折・干渉
光が曲がる現象を、屈折といいます。
たとえば、グラスに注いだ水に突き刺したストローが急角度で折れ曲がったようにみえること、ありますよね。
この現象は、光の屈折によるものです。
屈折と似た散乱現象も日常のいたるところで見られます。
代表的な例は、昼間の空の青さ。短波長の光(青を感じる)ほど散りやすく、空気中の粒子にぶつかって全方向に散らばった結果を、私たちは青空としてみています。(関連:空はなぜ青いのか?)
さらに、光は粒子にあたった際に回り込んだり(回折)、光の波同士がぶつかった際には、強めあったり打ち消しあったりする干渉を起こします。
干渉によって波長が強まると、別の色に見えたり鮮やかさが増したりします。シャボン玉や洗剤の表面が虹のような玉虫色に見えるのが、身近な干渉の例です。
色のしくみ:モノ(対象)について
さて、次はモノ(対象)の観点から光と色の変化について解説します。
光が反射・吸収・透過・屈折そのほかふるまいを変えるのは、モノや対象の特性の違いから生じます。
では、その特性とは何か?
物体の性質と光の反射吸収
木のテーブル、プラスチックの容器、石畳の道、金属の車、コンクリートの壁…、私たちの身の回りのあらゆる物体は、硬くて安定した存在のように見えます。
テーブルに触れた手が溶け合って混ざることはありませんし、ぶつかると痛いですよね。
しかし、物質はおろか人間の身体も他の生き物も植物も含め、突き詰めると原材料は同じ。目には見えない極小の粒子である「素粒子」の集合体です。
あらゆるものは、素粒子で組成された原子と、原子が集まって作られる分子構造によって成り立っていています。
原子は、陽子と中性子から成り、原子核の周りを電子が周回して覆っています。そして電磁気を帯び、振動し、それぞれ固有のエネルギーを放ちます。
原子が組み合わさって複雑な分子となり、さらに分子が集まって私たちが見える大きさの様々な物体となります。
大ざっぱに言えば、すべての物質的なものは、電磁気エネルギーを帯びた振動する粒子です。
光がモノに当たった際に反射・吸収・透過・屈折など動きの変化を起こす理由は、その振動する粒子(群)に光の各波長が反応するため。
表面の構造、粒子の密度やサイズ、原子の周りを回る電子とのエネルギーの交換(相互作用)によって、吸収する波長と反射する波長が決まり、その結果として目に届く光が色の感覚をもたらします。
色素とは何か?
そして、私たちが一般的に色素(しきそ)と呼ぶものは、光の反射・吸収に特に影響を与える化合物や組成を指します。
たとえば、人の肌色を決めるのは主にメラニンとヘモグロビンです。(画像はメラニンの化学構造の模式図)
メラニンは、メラノサイトという細胞が紫外線を受けて生成し、紫外線を吸収して肌を守る役割を担います。
日焼けで肌が黒ずんで見えたりシミとして残るのは、メラニンが肌に蓄積することで、肌表面の光の吸収と反射の特性が変化するため。
余談ですが、白人、黒人、黄色人種の肌色や髪色の違いはすべて、メラニンの量の違い(に基づく、光の反射の違い)でしかありません。
続いてヘモグロビンは、血液中に存在するタンパク質です。酸素と結合すると鮮やかな赤色にみえ、そうでないときは暗い赤色をしています。
そのため、酸素を全身に運ぶ動脈は真っ赤な血が流れていますが、体の奥にあるため基本的には見えません。
反対に体表近くを流れている静脈は、身体中から老廃物や二酸化炭素を回収して心臓に戻ってくる役割です。
この静脈がいわゆる浮き出る血管。それが青緑色をしてみえるのは、皮膚による光の吸収と、静脈血中の酸素飽和度が低いヘモグロビンが光の大部分を吸収するためです。
構造色
モノの色を決める原理は、色素による光の反射吸収だけではありません。もうひとつ、構造色と呼ばれる発色のしくみがあります。
構造色は、特殊な表面構造を持つ物体や生物にみられる現象で、照らされた光が干渉を起こし、波長を強めあったり弱めあったりすることで生じる色です。
構造色の例には、昆虫の玉虫やモルフォ蝶の羽の色、ハトやカワセミなどいくつかの鳥類の体表の色などが挙げられます。
特にモルフォ蝶の羽は、まるで生物とは思えないような美しい青色に輝いています。
この羽を拡大すると、非常に小さな凹凸があることがわかります。この写真は私自身がスマホで限界まで拡大して撮影したものですが、顕微鏡を用いると、もっと複雑な階層構造がみえてきます。
その構造自体は、青い色をしていません。光を各波長に分光し、干渉を起こし、短波長を放出した結果として鮮やかな青〜水色の色彩を作ります。
分光反射率曲線・分光透過率曲線
光の吸収や反射の割合は、グラフで示すことができます。
物体が、どの波長域の光をどのぐらい反射するか図式化したものを分光反射率曲線(ぶんこうはんしゃりつきょくせん)といいます。
補足:分光分布図と分光反射率曲線の違い
すでにご紹介した分光分布図は、可視範囲の波長成分の比率(比エネルギー)を図式化したもの。分光反射率曲線は、各波長の反射率を示したもので、図のかたちはそっくりですが意味合いが異なります。
こちらはリンゴの分光反射率曲線のイメージです。リンゴを照らす光の波長のうち、リンゴの表面で長波長(赤を感じさせる領域)が反射し、残りの波長はリンゴが吸収します。
相対的に、赤を感じる光を多く跳ね返している(だから赤く見える)ことを、この図は示します。
なお、「長波長を跳ね返す」と「短〜中波長域を吸収する」作用は、りんごの表皮の色素であるアントシアニンによるものです。リンゴは、アントシアニン、クロロフィル(緑色の色素)、キトサンフィル(黄色の色素)などを持っていて、太陽を浴びることで生成量が変化していきます。
補足:分光透過率曲線
光を透過する割合は、分光透過率曲線で示します。縦軸が透過率に変わるだけで、かたちは同じです。
物体の色は、ここまでご説明した光の各波長が持つ特徴と、分光反射率曲線や分光透過率曲線をみれば、おおよそ予測できます。
こちらは光を全反射する物体の分光反射率曲線です。可視範囲の波長をまんべんなく反射した物体を、私たちは白く感じます。
反射率が下がるほど、白から灰色にくすんでいきます。
そして、反射率が0%に近いほど(=吸収率が100%に近いほど)、その物体は黒くみえます。
では、この反射率を示す物体は何色でしょうか?
短波長の光を吸収し、中〜長波長を多く反射しています。つまり緑と赤の領域。この両方の成分を持つ光に対し、私たちは黄色を感じます。
この反射率曲線は?
中波長を吸収し、赤と青を感じる波長域を反射した物体は紫に見えます。
そして光の反射率が高いほど鮮やかに感じ、反射率が低いとくすんで見えます。
補足:分光反射率曲線と色
- 各波長成分の割合 = 色のプロフィール
- 反射率が高いと、鮮やかな色になる
- 反射率が低いと、くすんだ色になる
可視光線を全反射すると白、全吸収すると黒。色の違いは、光の選択反射/選択吸収の結果。それらを図式化したものが分光反射率曲線です。
物体色と光源色
ここで、光源の話題に少し戻ります。
物体が反射する波長で感じる色を「物体色」、光源から放たれる光から直接感じる色を「光源色」といいます。
私たちは、その両方を感じる視覚の世界で生きています。
冒頭の図を引用します。リンゴを赤いと感じるとき、リンゴから跳ね返ってきた光の波長を見ています。しかし同時に、光源から出ている光の影響も避けられません。
すでに触れたとおり、太陽や電球など光源によって分光分布は異なります。
太陽光は可視範囲の波長をまんべんなく含み、白熱電球は長波長にかたよっています。また、太陽の方が光の放出量も多い(この図の縦軸は各波長のエネルギーの比率を示していて、太陽の図の上端は2.0、白熱電球は1.0。つまり太陽の方が高出力)です。
既述のとおり、太陽が白い光なのは可視光線がすべて混ざって強く放射されているため。白熱電球が黄みがかったおだやかな光を放つのは、可視光線の黄・橙・赤寄りの光を多く含むから。
光源色の違いは、光源が持つ分光分布の差だと言えます。
一方、物体色は光源色に依存します。
物体それぞれの光の反射吸収特性は光源には左右されません。しかし、どんな波長を含む光源に照らされているのかによって、反射する光の波長帯と量は変化します。
青空の屋外と、薄暗い電球の部屋でリンゴを見比べたら、違った色と質感にみえるでしょう。
極端な話、青いフィルムをつけたランプでリンゴを照らすと、赤にはみえません。なぜなら、赤を感じさせる長波長がそもそも光源から出ていないので、リンゴが赤くみえるための波長が目に届かないからです。
補足:光源色・物体色
- 光源色:光の色(分光分布の違い)
- 物体色:モノの色(光を反射した結果)
- 物体色は光源によって変化する
部屋のなかで、真っ青な照明だけを灯して試してみてください。リンゴに限らず、部屋全体を青く感じでしょう。光源色が青(短波長)ならば、必然的に緑や赤を感じることはできません。
(でも、慣れてくるとだんだん青以外の他の色も普通に感じはじめます。それは、次のページでご紹介する目や脳のはたらきによる補正です)
まとめ:光とモノの相互関係で目に届く波長 = 色のもと
さて、いかがでしたでしょうか?
色がみえる仕組みに関係する、光、モノ(対象物)、目、脳の四つの要素のうち、物理に属する「光とモノ」に焦点をあててご説明しました。
もう一度、冒頭で箇条書きした光とモノの重要点をご覧ください。
ポイント:光について
- 光とは、「人が見える電磁波」のこと
- 光は、波であり粒子の性質を持つ
- 光は、波長の大小と強弱でエネルギーが異なる
- 光源の種類によって、放射する波長成分比が異なる
- 光は直進するが、何かに当たると反射・吸収・透過したりする
ポイント:モノについて
- 物質はすべて、素粒子でできている
- 物質はすべて、原子(素粒子の集合)を組み合わせた分子で成り立つ
- 物質の分子構造によって、光の吸収・反射率が異なる
- 物質の表面構造によって、ツヤツヤ、マットなど反射の質感が変わる
- ガラスや水などが透明なのは、光を通す(透過する)から
光がどのようなもので、身の回りのモノの色が光とどう関係しているのか、なんとなくイメージできましたか?
最後に、改めて端的にまとめてみます。
色のしくみ:光とモノの観点まとめ
- 私たちが色を感じるための根本的なみなもとは、「光」です。
- 光は、電磁波のごく限られた波長帯。その波長だけが、目にみえる。その視認できる波長それぞれが、色を感じさせるエネルギーを持っています。
- 光はまっすぐ進みますが、何かにぶつかったときに動きを変えます。吸収され、反射し、屈折し、通り抜け、散らばり、回り込み、干渉し、そして目に届きます。
- 人も動物も植物も物体もみな素粒子でできていますが、原子・分子の構造の違いから光の反射吸収特性が異なり、それが目に届く光に影響を与えます。
- 光と言っても光源ごとに分光分布が異なり、目に届く波長の違いを生みます。
- 色の違いは、光源から直接目に入ってくる光と、身の回りのあらゆる存在から跳ね返ってきた反射光のうち、どの波長帯の光を、どのような割合で、どのぐらいの強さで受け取ったのかの差。
目に届いた光のなかで、短波長が多めなら青っぽく、中波長がメインなら緑、長波長寄りならオレンジや赤にみえる。
短波長と中波長が混ざった光はシアン(空色、水色)にみえます。中波長と長波長が主体なら黄色、短波長がやや少なめで長波長が多い組み合わせはマゼンタ(赤紫)に近い色として知覚します。
各波長が均等に強く目に届くなら白を感じ、光の跳ね返りが弱いものは灰色に、そして光をほぼ吸収するものは黒。
すべて、目に届いた各波長の比率次第です。
…と、これだけで十分に色のしくみが理解できたように思えますが、それでも道の半分です。光を目が受け取り、電気信号に変換し、脳に伝えてようやく色として認識します。
この過程にも、色を感じるしくみの不思議さとおもしろさが詰まっています。
一例をご紹介しますね。
サングラスをかけたとき、最初は周囲の色に違和感を感じるものの、いつのまにか自然な見え方になってきます。それは、目のなかの細胞が感度を自動調節しているからです。
白黒のバナナの写真を見ているとき、私たちの脳内ではそれをどう認識しているのか?
実験によると、脳内では黄色いバナナを見ていると認識するのだそうです。黄色を感じるための波長が目に届いていないにもかかわらず。
私たち人間の目のなかには一箇所だけ、光や色を感じる細胞がまったくない場所が存在します。
いわゆる「盲点」です。
盲点は、光が当たっても反応しません。
だから、本来なら私たちの見えている世界には「何も存在しないと感じる小さな穴」が生じるはず。でも、周りをみわたしても、目の前にはそんな穴なんてないですよね。
実は、その穴は脳が勝手に周りの景色にあわせて埋めています。
次のページでは、これらのトピックも含めつつ、色のしくみ【Part.2】目と脳についてお伝えします!(現在作成中です)
長文お読みいただきありがとうございました。色について理解を深める参考になれば幸いです。