こんにちは、ノアヲです。
世界各国の街を色の観点からご紹介&考察するコラム【世界の色】、Vol.3はジョージアの首都トビリシです。ヨーロッパとアジアの文化が混ざり合う交差点、世界有数の歴史を誇る古都についてご案内します!
トビリシってどんなところ?
そもそもジョージアってどこ?と、いまいちピンとこない方も多いかもしれません。ジョージアは黒海の東岸に位置し、北はロシア、東はアゼルバイジャン、南はトルコやアルメニアと接した小国です。ロシアとの国境には標高5000mを超える山々が連なるコーカサス山脈があり、南は乾燥した草原が広がります。面積は日本のおよそ5分の1、北海道より少し小さいぐらい。人口は約400万人。
1921年から1991年まではソ連の一部で、ソ連崩壊後に独立。当初はロシア語読みのグルジア(Gruziya)と呼ばれていました。しかし、2008年にロシアによる侵攻があり、2015年に日本を含む世界各国からの呼称が英語名のジョージア(Georgia)に変わりました。ですから、古い「グルジア」呼びのほうが馴染みがある、という人もいると思います。
ジョージアは「ワイン発祥の地」として、ワイン好きにはよく知られています。世界で2番目にキリスト教を国教にした国(1番目はお隣のアルメニア)でもあり、山頂に佇む古い教会は、まるでロールプレイングゲームの景色。とにかく自然が美しく、民族ダンスや多声音楽など様々な伝統文化を残します。
トビリシ(Tbilisi)は、そんなジョージアの首都。全人口の4分の1、100万人以上がトビリシに暮らしています。
アジアとヨーロッパの交点・ジョージアの首都
ジョージアのあるコーカサス一帯は土地がゆたかで、古くからシルクロードの要所として人や物の往来が多かった場所です。ヨーロッパやアフリカなどの物品が中央アジアを経て中国、そして日本へ至る過程で通過する、いわば東洋と西洋が出会う十字路として機能してきました。
国内東部に位置するトビリシは、何千年もの歴史を持つ古都。紀元前4000年ごろに作られた人の集落の痕跡があり、約1500年前の5世紀に建造された旧市街の遺構も今なお残されています。
数多の戦禍を乗り越えて発展を続ける街
美しい自然に囲まれた交易の要所であることから、ジョージアの地は幾度となく外敵から侵攻され、数多の戦禍に巻き込まれてきた歴史を持っています。トビリシの街も例外ではありません。5世紀に建都されて以来、ペルシャ、ローマ、アラブ、モンゴル、ロシアなど、数々の多民族や大国に侵略・支配されながらも自分たちのアイデンティティを守り、発展を続けてきました。
街には、使われなくなった旧ソ連時代の建物もまだまだ残されています。オールドシティの石畳の道や石造りの教会は印象的で、中心のビジネス街はガラス張りの大きな商業施設や新しいホテルも立ち並びます。
太古からのつながりを保ちつつ、他民族の文化も受容する。そして、社会主義からの脱却と自由へ期待を寄せながら、トビリシの街は今急速に発展しています。
伝統文化を守り豊かな精神性が息づく
日本のような四季があり、水が豊富で土地が肥沃なジョージア。食事は野菜、果物、ナッツなどを多用する自然派で、ミルクやチーズ作りも盛ん。どれも美味しい。
それらの食事とともにワインが食卓を彩ります。ジョージアの人々にとって、ワインは酔うための酒ではなく、おもてなしの精神を表現するためのもの。彼らの心には「お客様は神様が遣わした存在」という考えがあり、ジョージア特有の「シュプラ(宴)」では、ワインを酌み交わすトースト(乾杯の挨拶)のたびに深い人生哲学が語られ、食卓は文化そのものとなります。
このようなワインへの深い愛と慣習は、今もトビリシの暮らしに息づいています。街は変わり続けながらも、そこに暮らす人々の生活は素朴で昔から受け継がている心の豊かさを保っているように感じます。
トビリシの色彩
さて、そんなジョージア・トビリシの街の様子を色彩の視点からご覧ください。
茶褐色の背景と柔らかな緑のナチュラルシティ
トビリシの多くの建物はヨーロッパ各国と似た石造、レンガ造り。壁の色は白、ベージュ、茶褐色が中心です。
旧ソ連自体に建てられた建築物は総じて大きく、圧倒的な存在感。
しかし、石材の冷たさを中和するかのように街には緑が溢れていて、都会特有の息苦しさがありません。
街の中央通りであるルスタベリ・ストリートに植えられた街路樹は建物の高さほど大きく育っていて、散歩時の木漏れ日が心地良い。
道路脇の芝生と銅像と石壁も絵になります。
一方、冬場は葉の緑がないため印象がガラリと変わります。
オールドシティには、観光地として整備された綺麗な場所もあれば、未整備の路地裏、壊れた家がそのままになっている場所も多数。
国そのものが新しい体制として発展の真っ只なか。街に溢れる自然の緑は人の営みと違う時の流れを体現し、新旧の対比を和らげているようにも感じます。
ワイン愛!?クヴェブリと曲線装飾のアクセント
ジョージアでは、少なくとも8000年前にはワインを作っていた記録が残されています。当時は「クヴェブリ」という素焼きの大きなの甕(かめ)に、絞ったブドウの果汁や皮などを入れて、甕を地中に埋めて発酵させていました。
この伝統製法による自然派のワインは今でも一般的で、スーパーでも売っていますし、レストランやワインバーで普通に飲めます。
そして、伝統への敬意と国の分かりやすいアピールのためでしょう、ワインバーの看板やテーブル、飾り付けにはクヴェブリがよく用いられています。
ジョージアを訪れるとき「なんでこんなにもツボが転がっているのだろう?」と気になったら、この記事を思い出してくださいね。
また、トビリシの街では、街灯、鉄柵、門扉、そのほかいろいろな場所で曲線の装飾を目にします。
アール・ヌーボー風のデザインですが、多くはブドウの蔦を象徴しています。
教会内の装飾もブドウを模したもの。
言語も曲線的です。ジョージア語はジョージアでしか使用されない独自の言葉で、丸みを帯びた33個のアルファベットは見た目にもかわいい。文字にほとんど直線がなく、街の看板も案内図もなんとなく柔らかい印象を与えています。
ジョージア・トビリシを訪れたなら、クヴェブリの茶褐色のモチーフ、ブドウ由来の曲線の美を探しつつ、ワインを飲むのが好きならぜひ現地の味をご堪能ください。
国旗の5つの赤十字に込められた意味は?
ジョージアの国旗は、中央に大きな十字、その周囲に4つの小さな十字をあしらったデザインをしています。日本の日の丸と同じく、色は赤と白。
日本だと街中で国旗を目にすることは少ないですが、ジョージアではそこかしこで目にします。
特にトビリシは行政機関や教会も多いため目にする機会が多い。
飲食店も掲げていますから、赤いクロスが街の差し色になっています。
この旗はまだ実は歴史が浅く、2004年から国旗として使用されるようになりました。もともとは、2003年11月の議会選挙の際に野党勢力がシンボルとして使用していた12~14世紀頃の中世グルジアの旗です。
このときの選挙は、のちに「バラ革命(無血革命)」と呼ばれる国政の転期でした。与党側の勝利で終わったのちに大規模な不正が発覚し、野党支持者がバラを持って議会を占拠し与党の政治活動を妨害。当時のシェワルナゼ大統領が辞任に追い込まれます。その後1月の大統領選挙で野党側を率いるサアカシュヴィリ氏が勝利し、政権が交代しました。
こういった経緯もあり、国民にとって非常に思い入れの深いシンボルとなっています。
デザインの意味はキリスト教に由来し、中央の大きなクロスは聖ゲオルギウス十字(英語ではセント・ジョージズ・クロス)といいます。
聖ゲオルギウスは古代ローマ末期の軍人・キリスト教の殉教者で、ジョージアにおいてはドラゴン退治の伝説を持つ聖人として畏敬の対象です。当記事の冒頭の写真にも写っている、街の中心にある尖塔の頂部モニュメントも、彼がドラゴンを退治する様子。(余談ですが、ゲオルギウスのジョージア語読みはギオルギ。現地では、彼に由来するこの名前の男性も多い)
中央に大きな十字、周囲に四つの十字をあしらったデザインはエルサレム十字と言い、11世紀のエルサレム王国や十字軍が用いていました。
ジョージアの国旗はこの2つの掛け合わせで、キリスト教と国民の団結を象徴しています。
奇しくも、ジョージアはヨーロッパとアジアが混じり合う場所。国旗はそんな文化の交差点をも示しているように思えます。
ジョージア・トビリシの色彩まとめ
以上、半分はジョージア全体のことも含めてご紹介しました。私はワインを飲むために現地研究のために複数回訪れていて、個人的に大好きな国の一つです。
トビリシは首都だけあって発展が進み、古い街並みと近代建築が混在した独特の色彩世界です。日本ではお目にかかれない奇抜なデザインの建物もあって、散歩が楽しい。
街の色ではないのでトピックとして挙げませんでしたが、教会内に飾られた絵画や天井画は息を呑む美しさ。
旧ソ連から独立して2025年で33年。まだ国として若く政治が不安定。2008年に隣国ロシアから侵攻を受けたこともあり、一部の人々の対露感情は悪化しています。さらに2024年に実施された議会選挙の結果に対する不満と抗議活動も活発です。
そういった事情から、石造の美しい建築の足元には、ロシアへの不満や現政権に対する主張、また、パレスチナの自由を求める運動のスローガンまでもが黒いスプレーで書き殴られていて、街の景観を損なっています。
見事な自然、ゆたかな食、伝統舞踊や音楽、そして受け継がれてきたワインとその想い。世界に誇る美しい文化に、政治的混乱とイデオロギーが暗い影を落とすのは、なんとももったいない。
ただ、治安は総じて良いですし、人は優しくて、見るものや学ぶものが多い国です。トビリシから30分ほどの場所にある世界遺産の古都ムツヘタは本当にドラクエの世界を彷彿とさせます。山頂のジワリ修道院、街中のスヴェティツホヴェリ聖堂は一見の価値あり。
今後トビリシを訪れる際は、ぜひ色彩の観点からもお楽しみください!