「ねぇねぇ、色って何種類あるの?」
子供のころ、親や学校の先生に聞いたことはありませんか?あるいは今まさにお子さんに聞かれて返事に困っていませんか?
色は何色あるのか。素朴な疑問ですよね。
でも実はこれ、答えるのが結構難しい話なんです。
なぜか?
このページではそのなぜを掘り下げて「色の種類・色の数」をお伝えします。
読み終わる頃には、きっとお子さんにバッチリ答えてあげられる…かもしれません。
なぜ色の種類を答えるのは難しい?
色の種類を答えるのが難しい理由。
それはズバリ、色は
「全部で○○色です!」
と、はっきり数えることができるものじゃないから。
どういうことか?
色とは、あなたの頭の中に生じている電気信号・知覚現象のひとつです。
目の前にあるモノがその色をして見えているのは、そのモノがその色だからではなく、あなたの頭のなかでその色に見えているから。(このあたりの話は、そもそも色とは何か?のページでご説明しています)
赤、青、緑、黄、白、黒、そのほか目の前にはさまざまな色が溢れています。しかし、それらは実際のところ全部あなたが「そう感じている」という感覚なんです。
一旦ちょっと寄り道して、例えば味の種類について考えてみてください。
味には、甘い、辛い、酸っぱい、苦い、などいろいろありますよね。
でも、甘いという感覚にも、少しだけ甘い、かなり甘い、甘すぎなど、食べたものによって感じる度合いが違うと思います。言葉では「少し」「かなり」「過ぎる」などの仕分けができますが、実際の感覚は「ここからここまでは普通の甘さ」「これ以上はめっちゃ甘い」という明確な線引きができません。基準がありませんから。食べるときの状態によっても変わりますし。
色を数えるのもそれとほとんど同じです。
例えばこれ。
赤、緑、青、黄。これは味覚に置き換えたら甘い、辛い、苦いなど味の方向性の違いと言えます。カラーの業界では、色みのことを(色相:しきそう)と言います。色相がはっきり違うと見分けるのは簡単ですね。あきらかに別々の色です。
ではこれ。
鮮やかな赤とくすんだ赤。同じ赤色ですが、鮮やかさの度合い(彩度:さいど)が違っています。色相は同じ赤に属します。でも、これだけ差があれば見た目には違う色だと認識できるかと。
さらにこちら。
この2つの赤には明るさの度合い(明度:めいど)の差があります。赤色同士ではありますが、違って見えるため別の色と言えるでしょう。
じゃあこれは?
どうでしょう?違いを感じますか?それともまったく同じように見えますか?厳密には、画像として赤色を出力する際の数値を少しだけ変えています。(左に比べて、右の方がほんの少し薄い)
最後の、このそっくりな赤2つ。
同じにしか見えなければ一色で、見分けがつくなら別々の色。
つまり、「色の種類とは」に答えることは、私たちヒトが色を
どのぐらい見分けられるか?
その数を集計しよう、という話なんです。
だから、あらゆる色の色相・明度・彩度を少しずつ変化させていき、「変化した!」と感じるごとにカウントすることで色の数が分かります。
ヒトが見分けられる限界は何色?
では一体、ヒトはどれほど色を見分けられるのか?
実際に検証するのは途方もない作業となるため、先人の知識を拝借して答え合わせといきましょう。
ヒトが何か異なる刺激の差異を感じ取る力を弁別力(べんべつりょく)と言います。ヒトの目の網膜には、色や明暗を感知する細胞がびっしり並んでいます。目に入ってきた光の量(刺激)に応じてそれらの細胞が反応し、脳に情報を送って色がわかるようになっています。
つまり目と脳の働きのおかげで、いろいろな色が感じられているわけです。
ところが、すべてのヒトの目の細胞が完全に同じ働きをしているわけではありません。目は年齢と共に衰えます。男か女か、健康かどうか、また遺伝によっても反応は違います。さらに、そのときのメンタルまでも影響します。
このような内的要因に加えて、見ている場所が明るいか暗いかといった外的要因も色の見分けに大きな影響を及ぼします。
そんなさまざまな理由でヒトの弁別力は個人差・環境差があるという前提を踏まえた上で、いよいよ答えの発表です。
あくまで若く健康な状態(正常な色覚の保有者)だとすると、通常の環境では
187万5000色
もっとも良い条件なら
750万色
まで見分けることが可能だと言われています。
また、色彩の世界に数多くの功績を残したアメリカの物理学者Deane Brewster Judd(ディーン・ブリュースター・ジャッド)は
200万~1000万色
としています。
1から1000段階までの明暗の違い、100段階の赤-緑の差、100段階の青-黄の差を見分けることができると考え、1000 x 100 x 100 = 1000万通りという説もあります。また現実的には30万色程度とする説、反対に1000万色以上だと考える説など、諸説あり。
いずれにせよとてつもない数字ですね…
数値の差を踏まえても、ヒトが目と脳をフル稼働させて見分けられる限界・色の数は数百万色はありそうだというのが「色は何種類?」という疑問の1つの答えになるでしょう。それはもはや、もっとシンプルな言葉にするなら色の種類は無限と答えて良さそうです。
もっとざっくり知りたい!色の名前はいくつなの?
ということで、色は、あなたが見分けることが可能な数だけ存在します。厳密には。
ですが、もしかしたらあなたは「いやそういうことではなく、色の名前はいくつあるの?」という疑問の答えを知りたくてこのページへいらしたのかもしれません。
それを無限と言われても…ちょっとしっくりきませんよね。
ということで、ここからは切り口を変えて話を進めます。
(『日本の色・世界の色』発行所:株式会社ナツメ社/監修:永田泰弘より)
色の名前はいくつあるのか?
これも実は奥の深い疑問。
ものすごく単純に答えると、「黒・白・灰色」のような色味のないグループの無彩色(むさいしょく)と、赤・青・緑・黄のような色味のあるグループの有彩色(ゆうさいしょく)で、色は計2種類だと言えます。
ただしそれはあくまで大雑把な区分けでしかありません。
黒も白も赤も青もそれぞれ違って見えますし、黒や白や赤や青という言葉自体が色の名前。
その数だけ色名はあります。
例えば、黒、白、灰、赤、青、緑、黄、橙、茶、紫…この時点で10種類。
では「色は10種類です」と結論づけて良いでしょうか?
もちろん違いますよね。
例えば「黄緑」「赤紫」「青緑」など、いくつかを混ぜたような色の名前がありますし、「深緑」「薄紫」など濃淡の特徴を表した色名も。
また、「桜色」「桃色」「空色」「栗色」など特定のモノの名前をとった色もあります。「エメラルドグリーン」「ローズレッド」など英語もあり。
さらに「新橋色」だとか「ロイヤルブルー」など、知っていなければ連想できないような名前も。
「緑みの青」や「鮮やかな黄みの赤」など工業で使用される規格化された呼び方もあります(JIS系統色名)
挙げるとキリがないので、一旦ストップします。
さて、これら色を示した言葉は一体いくつあるのでしょうか?
ここで参考となる答えをいくつかご紹介します。
1954年に東京創元社から出版された『色名大辞典(著者:日本色彩研究所 編、和田三造 監修)』という本には、2130種類の日本の伝統的な色の名前が掲載されています。
洋書では、1955年に出版された『The ISCC-NBS method of designating colors and a dictionary of color names( ケネス・L・ケリー及びディーン・B・ジャッド共著)』に7500色もの英語の色の名前が収録されています。この本の著者のジャッド氏は先ほども登場した物理学者です。
内容はすべてこちらで確認できます。
また、すでにご紹介した『日本の色・世界の色』では、日本と世界の色487色が系統立てて収録されています。
これらの書籍に収録されている色の名前は、赤、青、黄、緑などの基本的な色の分類名ではなく、なんらかの由来を持ったもの。文化の発展過程で生まれた名称です。
すごい数ですね。
しかし、日本の伝統色をまとめた『色名大辞典』と、英語の色名をまとめた『The ISCC-NBS ~』、この二つの書籍の収録数はなぜそんなにも違うのか?
すでにご説明したとおり、色は感覚です。
人類は、お互いの感覚・感じていることを伝達するために言葉を発するようになり、文字を発明し、社会・文化を作って発展してきました。
その過程で、色にも名前が与えられ、分類され、多様化してきました。
生活のなかでよく見かけたり利用するモノの色は、より細かく仕分けされて名前が増えていきました。反対に、生活に関わりの薄い色の名前は忘れられたり消えていったり、他に統合されたりしました。
例えば日本では、信号が緑っぽいのに青信号と言ったり、鮮やかな緑の野菜を青野菜と呼びますよね。
あれ、昔は青と緑に明確な区別がなかった名残りと言われています。(信号が導入された当初は緑信号と呼んでいたようですが、いつのまにか呼称が青になった)
世界的には、19世紀以降に科学技術の向上によって再現できる色の範囲が拡大し、色の名前も爆発的に増えました。
要するに、色の名前の数は、地域・文化・時代・言葉によってもバラバラなんです。
ちなみに現在の日本では、普段からよく使う色の名前を慣用色名(かんようしょくめい)と言い、日本工業規格(JIS)では269色が規定されています。
色見本帳やデータで数えるといくつある?
言葉による色の伝達は、なんとなくイメージを伝えるには有効です。一方で、より厳密に正確に「この色!」とお互いの認識を共有するには限界があります。
例えば、
「壁をベージュに塗っておいて」
と言われたとします。
これだと「黄色っぽい白かな…」と連想できても、白に近いのか、黄色に近いのか、濃いのか薄いのかどんな色味なのかは曖昧ですよね。
自分が思うベージュを塗ったものの、あとで「全然違うよ!」と言われる可能性もあるでしょう。
このような互いの認識のズレを防ぐため、人々は色をどうすれば正確に伝えられるか、さまざまな工夫を凝らしてきました。
詳しくはここでは省略しますが、まず色の見本が作られるようになり、次に色の色相・明度・彩度の3つの属性を数値化して系統立てて分類したカラーオーダーシステムというものが開発され、数値や記号で伝達できるに至りました。
つまり、言語による曖昧なものではなく、今では色を「見本で伝える」「データで伝える」ということが可能になったわけです。
よって、色の種類は
ある特定の色見本の数
または
数値の組み合わせパターン
の数でも答えることができます。
デザインに従事されている方々なら、マンセル表色系に基づく色見本、PANTONE(パントン)配色カード、RGB、CMYK、HEX、HSVなどいろいろな規格の数値による色の表現方法をご存知かと。
最後に、これらに基づく色の種類をご紹介して締めくくりとしましょう。
市販されている配色カードの収録数
マンセルシステム 色の定規 スタンダード版 | 有彩色886色 無彩色18段階 |
日本塗料工業会 色見本帳 塗料用標準色 2019年版 | 654色 |
DIC カラーガイド PART1 1巻 2巻 3巻 第20版 | 652色 |
日本色研 新配色カード199a | 199色 |
PANTONE 色見本 ファッション・ホーム+インテリア カラーガイド | 2310色 |
PANTONE 色見本 フォーミュラガイド/2冊組 | 2161色 |
これらの色見本は、それぞれ目的・用途が異なります。
数値で色を表示する際のパターン数
RGB(アールジービー) | テレビ、パソコン、スマホのディスプレイなどに使用される色の出力方式。R(赤)G(緑)B(青)それぞれ256段階の違いを組み合わせて色を表現するため、数値上は256 x 256 x 256 = 16,777,216(約1680万色)の表現が可能。 |
CMYK(シーエムワイケー) | 印刷物に使用される色の指定方式。C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロー)、K(ブラック)を0~100%までの段階で組み合わせて色を表現する。理論上は101の4乗で104,060,401色(約1億色)を作ることができるが、現実にはインクでそこまで再現できない。表現可能な色はRGBよりもかなり少なくなります。 |
私たちが普段利用しているスマホの画面上は、理論的には1680万種類もの色を表現できます。(ただし、ヒトの弁別力ですべてを見分けることは難しい)
色の種類はいくつあるの?まとめ
さて、いかがでしたでしょうか?
色の種類はいくつあるのか?ここまでお読みいただいて答えはわかりましたか?
「ねぇねぇ、色って何種類あるの?」という素朴な疑問は、思った以上に奥が深いテーマだったのではないでしょうか。
結局のところ、色の数は
色の種類はいくつ?
- あなたが見分けられる限界数:数百万色(個人差あり)
- 人々が命名した色の数:数千色(地域・文化・言語によって差がある)
- 伝達目的で作られた見本の数:数百〜数千色(用途ごとの見本帳によって差がある)
- 数値で表現できる色の数:数千〜1千万超色(形式によって差がある)
この4つの切り口で集計でき、それぞれでまったく異なります。
つまり、色の数え方そのものがいくつもある。
かといって、お子さんに質問された際に「前提をはっきりしなさい」なんて言うと心を閉ざしてしまうかもしれませんから(汗)、「どんな色を知っているの?」と一緒に数えてあげてください。本気で聞かれているなら、このページを回答のヘルプに。
この世は本当にさまざまな色で溢れています。自然界にも人間社会にも。
人間社会の色は、技術の発展・テクノロジーの進化で増えてきました。しかしそれ以前に、あなたが、どんな精密機械でもかなわないほどの色を見分ける能力を生まれながらに持っているから色彩豊かなんだということを忘れないでください。
あなたの身体は、自分で思っている以上にハイスペック。
色の種類はあなたが感じられるだけ無限にある。一方、名前をつけて暮らしのなかで活用してきた色は数千色。この先、新しい色の名前が誕生し、日々をますます彩ってくれるかもしれません。